合理的な費用を考慮した価格形成に向けて

― 制度と実証の枠組み ―

原材料やエネルギー価格の高騰・高止まりが続くなか、持続的な食料供給の確保が大きな課題となっています。このため、農林水産省では「合理的な費用を考慮した価格形成」の考え方に基づき、食料システム法による環境整備を進めることとし、コスト指標活用等実証事業を通じて民間団体の取組みを後押ししています。その背景と狙いについて、農林水産省大臣官房 新事業・食品産業部 企画グループの渡邉浩史グループ長に聞きました。

農林水産省大臣官房 新事業・食品産業部 渡邉浩史グループ長

コスト指標活用等実証事業とは

持続的な食料供給を支える価格形成の実現へ

コスト指標活用等実証事業は、合理的な費用を考慮した価格形成の実現に向け、関係者でコスト指標を作成するための取組等を支援するものです。本章では、事業の背景となる考え方、コスト指標の作成に求められる観点、そして実証事業の意義についてポイントを解説します。

合理的な費用を考慮した価格形成の考え方

原材料やエネルギー価格の高騰・高止まり、急激な円安、資金上昇などを背景に、農業・食品産業を取り巻く環境は大きく変化しています。コストが上昇しても、自社の企業努力によってやりくりしてきた事業者にとって、コストを適切に転嫁できない状況では、事業の継続が難しくなりかねません。

こうした状況のもとで議論されてきた考え方が「合理的な費用を考慮した価格形成」です。

令和6年度に改正された食料・農業・農村基本法では、食料の価格形成においては、需給事情や品質評価によることを基本としつつ、食料システムを通じた食料の持続的供給に要する費用が考慮されるようにすることが明示されました。従来の価格形成の考え方に「費用が考慮されるようにしなければならない」という視点が明確に位置づけられた形です。

ただし、これは一方的な価格転嫁を進めるものではありません。価格はあくまで当事者間の合意によって決まります。その前提として、どのようなコストが発生しているのかを把握し、説明し、協議する環境を整えることが求められています。

このため、令和7年に公布された食料システム法では、農林水産省と食品産業事業者が合理的な費用を考慮した取引を行えるよう、協議の申し出があった場合に協議に誠実に応じることが求められるとともに、関係者が取引条件の交渉において参考にできるよう、国が指定した品目については、民間団体が「コスト指標」を作成することが可能になりました。

ポイント解説

「合理的な費用を考慮した価格形成」とは、生産から消費に至るあらゆる食料システムの関係者の間で納得が得られる価格とするために、その食料の持続的供給に要する費用を考慮して取引価格を形成していくという考え方です。

価格形成の土台となる「コスト指標」

コスト指標は、価格を決めるための基準値ではありません。公的統計や民間データ、必要に応じた追加調査などを活用し、その品目の生産から販売に至る費用を算出したものです。

その狙いは、取引当事者が公正で信頼できる根拠資料の一つとしてコスト指標を活用することで、コストを踏まえた価格交渉を行いやすくすることにあります。

これまで、コストを取引先に説明しにくかった事業者や、そもそも十分にコストが把握できていなかった事業者において、コスト指標が価格交渉を行うきっかけになることが期待されています。

ポイント解説

「コスト指標が作成されることにより、取引の場においてこれを活用し、コストに関する情報を当事者双方で共有・認識することが可能になります。これにより、消費者の「値上がり感」から各取引段階が設定されていないような品目においても、コストを踏まえた取引条件の設定を進めるためのツールとして機能することが期待されます。」

コスト指標の作成に求められる観点

コスト指標の作成にあたっては、いくつかの重要な観点があります。

第一に、指標の信頼性と透明性です。実際にかかったコストを把握するために、どの公的統計のどの数字を使うか、適切な公的統計が存在しない場合に民間データ等をどのように組み合わせるか、といったコスト指標の算出方法を明確にすることで、指標への信頼性を高めることができます。

第二に、秘密性への配慮です。企業ごとの個別なコストは営業秘密に該当する場合が多く、コストデータを収集する等、コスト指標に関する議論をすることが不可能または困難とならないよう、可能な限り秘密情報に触れないような配慮が必要となります。

第三に、関係者の合意形成です。生産者、製造業者、流通業者、小売業者などの各流通段階が参画して議論を行い、関係者が作成プロセスに納得感を持つことが不可欠です。指標は、作成後に活用されて初めて意義を持ちます。そのため、「どのような考え方で整理されたのか」がサプライチェーン全体で共有されていることが、実際の取引で参照される有益な指標となります。

ポイント解説

「コスト指標の作成にあたっては、信頼性や透明性の確保や、秘密性に配慮し、サプライチェーン全体での合意形成が特に重要です。」

実証事業が担う役割

こうした考え方に基づき、進められているのが「コスト指標活用等実証事業」です。

コスト指標の作成はこれまでにない新しい実業であることから、本事業では生産から販売に至る関係者が参画してコスト指標の作成を支援することで、その取組みを先行して進めることとしています。コスト指標を作成した品目の関係者の経験を活かし、コスト指標の適切な活用に繋げることで、他の品目においてもコストを踏まえた取引に向けた取組みを促していくことを企図しています。

また、合理的な費用を考慮した価格形成による持続的な食料供給の実現のためには、消費者に理解してもらうことが極めて重要です。そのため、上記の初期実施案例の取組みに加えて、消費者の理解の醸成のための食品産業事業者等による情報発信による消費者行動の変化の検証にも活用されることが期待されます。

ポイント解説

「本実業に期待されることとは、大きく二点あります。第一に、コスト評価に重点出れたコスト指標の作成に向けて、サプライチェーンの関係者が参画してコスト指標の作成に取り組むこと。第二に、その初期実施事例の経験知により、取引に関わる関係者が消費者にしっかりと発信し、合理的な費用を考慮した価格形成に理解を求めていただくことです。」